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高知家庭裁判所 昭和59年(少)770号 決定 1984年7月04日

少年 M・K子(昭四二・一二・二五生)

主文

この事件については審判を開始しない。

理由

一件記録によつて認められる本件非行事実の要旨は、少年は、暴力団○○会内○○会組員Aと同準構成員Bが共謀して児童に売春婦として淫行をさせることを知りながら、児童であるC、D及びEを別紙一覧表記載の日時、場所において、Bに売春婦として紹介し、もつて、AとBが共謀して前記Cら三名に、昭和五九年三月三日から同月九日までの間、高知市内のホテル三箇所において、F外四名を売春の客として前後七回(C四回、D二回、E一回)にわたり淫行をさせるのを容易ならしめて、これを幇助したというものである。

本件非行事実は、刑法六二条一項、児童福祉法六〇条一項、三四条一項六号(児童に淫行をさせる罪の幇助)に該当するが、そもそも幇助犯の罪数は本犯の罪数によつて決すべきところ、児童福祉法六〇条一項、三四条一項六号に該当する罪(児童に淫行をさせる罪)は、その侵害される法益が対象である児童の福祉という専属的単一の利益であるから、児童をして淫行させたときは、淫行の回数が一回であつても同罪が成立することはもちろんであるが、それが継続的に反覆される場合においても、回数のいかんにかかわらず児童ごとに包括的に観察して一罪とする趣旨であると解すべきである。したがつて、本件児童福祉法違反幇助の罪数関係は、被害児童が三名であるから、併合罪(三罪)である。

ところで、当裁判所は、昭和五九年六月八日、前件(虞犯、職業安定法違反、児童福祉法違反)保護事件について、少年を保護観察に付する旨の決定をなしたが、前件保護事件について、当裁判所が職業安定法六三条二号(有害業務に就かせる目的で職業紹介を行なう罪)に該当すると認定した事実の要旨は、少年は、前記Aが設立した別紙一覧表記載のA興業事務所二階において、前記佐藤に対し、AとBが共謀して紹介児童に売春をさせることを知りながら、同一覧表記載のとおり、前記C外4名を順次売春婦として紹介して、もつて、同女らを公衆衛生上及び公衆道徳上有害な業務に就かせる目的で職業紹介したというものであり、また、刑法六二条一項、児童福祉法六〇条一項、三四条一項六号(児童に淫行をさせる罪の幇助)に該当すると認定した事実の要旨は、少年は、前記Aと前記Bが共謀して児童に売春婦として淫行をさせることを知りながら、前記Cを別紙一覧表記載の日時、場所において、Bに売春婦として紹介し、もつてAとBが共謀して前記Cに昭和五九年三月二日高知市内のホテルにおいて、Gを売春の客として淫行をさせるのを容易ならしめて、これを幇助したというものである。

本件非行事実中の前記Cを被害児童とする児童福祉法違反幇助の所為(包括一罪)と前件非行事実中の同女を被害児童とする同法違反幇助の所為とは、前記の理由により包括一罪である。また、職業安定法六三条二号の法意は専ら求職者が公衆衛生上又は公衆道徳上有害な業務に就くことを防止して、求職者の人権を擁護することにあつて、同条同号に該当する罪(有害業務に就かせる目的で職業紹介等を行なう罪)の法益は各求職者の人権である。したがつて、前件非行事実中の同法違反の罪数関係は、被害求職者が五名であるから、併合罪(五罪)であるが、そのうち前記C、同D及び同Eを被害求職者とする各所為と同女らを被害児童とする本件非行事実の各所為とは、これを各被害者ごとに観察すると、同じ日時、場所において各被害者を前記Bに対し売春婦として紹介したという一個の行為であるから、各被害者ごとに刑法五四条一項前段にいう観念的競合の関係に立つものといわなければならない。

そうすると、本件保護事件は少年に対して既に保護処分がなされた前件保護事件と同一事件であり、前件の保護観察決定の一事不再理の効力が及ぶから、審判開始の要件を欠くものである。

よつて、この事件については審判を開始しないこととし、少年法一九条一項により主文のとおり決定する。

(裁判官 長井浩一)

一覧表

被紹介者

紹介年月日

紹介場所

相手

(昭和42年11月17日生)

昭和59年2月24日

午後3時ころ

高知市○○町×番××号

A興業事務所2階

(昭和43年1月21日生)

昭和59年3月1日

午後1時ころ

(昭和43年3月25日生)

昭和59年3月3日

午後2時ころ

(昭和43年3月25日生)

昭和59年3月6日

午後7時ころ

(昭和42年8月16日生)

昭和59年3月6日

午後7時ころ

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